妊娠中の糖尿病: 妊娠中の合併症: メルクマニュアル18版 日本語版
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(糖尿病と炭水化物代謝異常症も参照 。)
妊娠は,既存の1型(インスリン依存性)および2型(インスリン非依存性)糖尿病を増悪させるが,糖尿病性の網膜症,腎症,または神経障害を悪化させることはないようである。また,妊娠性糖尿病(妊娠中に始まる糖尿病)は,肥満型で高インスリン血症,インスリン抵抗性の妊婦,または痩せ型で相対的にインスリンの不足している妊婦に発症しうる。妊娠性糖尿病は全妊娠の1〜3%に起こるが,特定の集団(例,メキシコ系アメリカ人,アメリカインディアン,アジア人,インド人,太平洋諸島住民)ではその割合がはるかに高まる。
妊娠中の糖尿病は,胎児および母体の罹患率ならびに死亡率を増加させる。新生児に呼吸困難,低血糖,低カルシウム血症,高ビリルビン血症,赤血球増加症,および過粘稠の生じるリスクがある。既存の糖尿病,または器官形成期(妊娠約10週まで)に起こる妊娠性糖尿病のコントロール不良は,重大な先天奇形のリスクを増大させる。妊娠性糖尿病では,血糖値がほぼ正常に維持されていても,胎児が巨大児(胎児体重が出生時に4500gを超える)になることがある。
治療
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受胎前カウンセリングおよび,妊娠前,妊娠中,妊娠後の最適な糖尿病コントロールにより,母体と胎児のリスク(先天奇形など)は最小限に抑えられる。奇形は妊娠と診断される前に発現することもあるため,糖尿病があり妊娠を考えている(または避妊薬を使用していない)女性に対して,一定の徹底した血糖値コントロールの必要性を強調しておく。さらに,全ての妊婦に妊娠性糖尿病のスクリーニングを行う(妊婦へのアプローチと妊婦管理: 臨床検査を参照 )。
糖尿病チーム(例,医師,看護師,栄養士,ソーシャルワーカー)および小児科医の連携によって,いかに軽微な妊娠合併症であっても迅速な診断と治療が行われ,計画的な出産および経験を積んだ小児科医の存在,ならびに新生児集中治療の確保により,リスクは最小限に抑えられる。地域の周産期センターには,糖尿病合併症治療の専門家が待機している。
妊娠中: 治療は多様かもしれないが,一般的な管理指針が有用である( 妊娠中の合併症: 妊娠中の糖尿病の管理表 1: 参照)。1型または2型の妊婦は,家庭で血糖値をモニタリングすべきである。妊娠中の正常な空腹時血糖値は,約76mg/dL(4.2mmol/L)である;治療は,空腹時血糖値を95mg/dL未満,食後2時間値を120mg/dL以下(6.6mmol/L以下)に維持することを目指すものである。目標は,血糖を大きく変動させないこと,およびグリコシル化Hb(Hb A1c)値を8%未満に維持することとなる。
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インスリンは胎盤を通過できず,さらに血糖コントロールの予測がつきやすいことから第1選択薬である;1型および2型糖尿病に使用される。抗体産生を最小限にするため,可能な限りヒトインスリンを用いる。インスリン抗体は胎盤を通過するが,胎児に対する影響は不明である。長期の1型糖尿病妊婦の中には,低血糖が正常な制御ホルモン(カテコールアミン,グルカゴン,コルチゾール,および成長ホルモン)の分泌を引き起こさない者がいる;したがって,過剰なインスリンにより前駆症状なしに低血糖性昏睡が誘発されることがある。1型の妊婦には全てグルカゴンキットを所持させ,重度の低血糖(意識障害,錯乱,または血糖値40mg/dL[2.2mmol/L]未満により示唆される)が起きた場合のグルカゴン投与を(家族にも同様に)指導� ��べきである。
経口血糖降下薬(例,グリブリド)は,投与が容易(注射と比べて錠剤は),低価格,1日1回投与の理由から,妊婦における糖尿病の管理に用いられることが多くなっている。いくつかの研究で,妊娠中のグリブリドの安全性および,妊娠性糖尿病患者に対してインスリンと同等のコントロールをグリブリドがもたらすことが証明されている。妊娠前からⅡ型糖尿病である妊婦については,経口薬に関するデータが乏しい;インスリンが最も多く選択される。妊娠中に経口血糖降下薬を服用していた女性は,産後の授乳期間中も服用を継続しうるが,乳児に対して低血糖症の徴候を注意深く監視すべきである。
合併症の管理: 糖尿病性網膜症,腎症,および軽度腎障害であっても妊娠は禁忌とされないが,受胎前カウンセリングおよび妊娠前と妊娠中の綿密な管理が必要である。
網膜症の妊婦には,トライメスター毎の眼科検査が必要となる。初回の妊婦検診で増殖性網膜症が認められたときは,進行性の悪化を防ぐためにできるだけ早急に光凝固療法を行うべきである。
うつ病のためのプロセス
腎症,特に腎移植を受けた妊婦は,妊娠高血圧に罹患しやすい。母体に腎機能障害がある,または移植が最近行われた場合は,早産のリスクがより高い。移植後2年以上経過してから出産する場合,予後は極めて良好である。
主要器官の先天奇形は,受胎時および妊娠8週目までのHb A1c値の上昇程度によって予測がつく。第1トライメスターにおける値が8.5%以上の場合,先天奇形のリスクは著しく増大するため,第2トライメスターに標的器官に対する超音波検査と胎児心エコー検査を行って奇形のチェックを行う。2型糖尿病患者が第1トライメスターに経口血糖降下薬を服用する場合,胎児の先天奇形のリスクは不明である( 妊娠中の合併症: 妊娠時に副作用を伴う薬物表 2: 参照)。
分娩と出産: 出産の時期は胎児の健康状態による。妊婦には,毎日60分間胎動を数え(胎動数カウント),いかなる急な胎動数の減少もすぐに産科医に報告するように指示する。ノンストレステストは妊娠32週に始め,nonreassuringであれば,引き続いてバイオフィジカルプロファイル(羊水,胎児の筋緊張,胎動,呼吸パターンの計測)を行う。これらの検査および同様の非侵襲的出生前胎児モニタリング検査は,しばしば出生前検査と呼ばれる。出生前検査は,妊婦が重症高血圧または腎障害がある場合,あるいは胎児発育遅延が疑われる場合は早期に開始する。胎児の肺成熟度を評価するための羊水穿刺は,産科的な合併症があり,妊婦管理が不十分,出産予定日が不確実,または血糖コントロールが不十分な妊婦においてしばしば必要となる。
満期での自然な経腟分娩が通常可能である。陣痛が妊娠38〜40週までに自然に始まらない場合は,死産および肩甲難産のリスクが増大するため,誘発が必要となる。機能不全分娩,児頭骨盤不均衡,または肩甲難産のリスクがあると,帝王切開が必要となりうる。
分娩および出産中の血糖値は,低用量インスリン持続注入により最適にコントロールする。分娩の誘発が計画されている場合,前日に妊婦は通常の食事をし,通常量のインスリンを使用する。分娩の誘発当日の朝は朝食とインスリンは控え,ベースラインの空腹時血糖値を測定し,注入ポンプを使用しながら,5%ブドウ糖を含む0.45%生理食塩水を125mL/時で静注し始める。初期のインスリン注入速度は毛細血管血糖値によって決まる;初期インスリン用量は,毛細血管値が80mg/dL(4.4mmol/L)未満の場合は0,80〜100mg/dL(4.4〜5.5mmol/L)の場合は0.5U/時となる。それ以降は,血糖値が40mg/dL(2.2mmol/L)上昇する毎にインスリン用量を0.5U/時ずつ増やし,血糖値が220mg/dL(12.2mmol/L)を超えた場合に最高の2.5U/時とする。分娩中は,ベッドサイ� ��で1時間毎に血糖値を測定し,血糖値が70〜120mg/dL(3.8〜6.6mmol/L)に維持されるようにインスリン用量を調節する。もし血糖値が著しく上昇すれば,さらにインスリンの急速投与が必要となりうる。自然な分娩の場合,手技は同じであるが,もしその前の12時間に中間型インスリンを使用した場合は,インスリン用量を減らす。発熱,感染症,または他の合併症のある妊婦,および2型糖尿病で妊娠前に1日100Uを超えるインスリンを必要としてきた肥満妊婦に対しては,インスリン投与量を増やす。
出産後: 出産後は,妊娠期間中に大量のインスリン拮抗ホルモンを合成してきた胎盤が消失することにより,インスリン必要量は速やかに減少する。したがって,妊娠性糖尿病の女性および多くの2型糖尿病の女性は,出産後にインスリンを全く必要としなくなる。1型糖尿病の女性ではインスリン必要量は劇的に減少するが,約72時間後には次第に増加する。
出産後最初の6週間の目標は,血糖コントロールを厳重に行うことである。血糖値を食前および就寝時にチェックする。授乳は禁忌ではないが,経口血糖降下薬により低血糖を招きうる。妊娠性糖尿病のあった産婦には,糖尿病が消失したかどうかを判断するため,出産後6〜12週目に75gブドウ糖による2時間経口負荷試験を行うべきである。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
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