溶連菌感染症の話:六号通り診療所所長のブログ:So-netブログ
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
溶連菌の感染症が、
今流行しています。
以前にも何度か取り上げましたが、
丁度今月のNew England Journal of Medicine誌にも、
その総説がありましたので、
その内容を踏まえて、
溶連菌による扁桃腺炎について、
今日はまとめて置きたいと思います。
溶連菌は細菌の一種です。
溶連菌は溶血性連鎖球菌の略で、
連鎖球菌というのは、
球形の構造が繋がったような形状をしている、
という意味合いで、
溶血性というのは、
血球を破壊する溶血毒素を持っている、
という意味合いです。
その中にも幾つかの種類がありますが、
A群β溶血性連鎖球菌が、
扁桃腺炎やリウマチ熱、
溶連菌感染後糸球体腎炎など、
多くの病気の原因になる点で重要で、
通常溶連菌と言うと、
このA群β溶血性連鎖球菌を指すことが一般的です。
さて、溶連菌に感染すると、
2~3日の潜伏期を経て、
咽喉が腫れ、高熱が出て、
頚のリンパ腺が腫れて痛みます。
これが溶連菌性扁桃腺炎です。
扁桃腺は赤く腫れ、
白や黄色の膿が出て、
物を呑み込むのも困難になります。
特に治療を行なわない場合、
熱は概ね3~5日で下がり、
咽喉の痛みや腫れは、
1週間程度で沈静化します。
つまり、治療をしなくても、
多くの事例はそのまま改善します。
こうした症状が出るのは、
概ね3歳から15歳くらいの年齢に多く、
大人になると勿論発症はありますが、
お子さんほどの頻度ではなくなり、
特に45歳以上では典型的な症状の発症は稀になります。
3歳未満のお子さんでは、
扁桃腺炎はあまり起こさず、
鼻風邪のような症状に終わることが、
殆どだとされています。
人々は彼らの心の穴を持っています
皆さんもお分かりのように、
これは身体の免疫反応に、
症状が大きく左右されることを意味しています。
扁桃腺は学童期には、
免疫反応が活発な状態になるので、
その症状も出易い理屈になる訳です。
先ほど溶連菌の扁桃腺炎は、
治療をしなくても自然に治る、
という言い方をしました。
それでは、溶連菌感染症を、
抗生物質で治療することには、
どのような意味があるのでしょうか?
これは1つには溶連菌感染症の、
重症な合併症を予防するためです。
溶連菌感染症の合併症には、
心臓の病気の原因になるリウマチ熱や、
溶連菌感染後腎炎、中耳炎や扁桃腺の膿瘍形成、
などがあります。
このうち、
腎炎のみについてには、
免疫複合体が原因なので、
抗生物質を使用してもしなくても、
その発症に明らかな差はない、
と考えられています。
つまり、抗生物質を使っても、
その後の腎炎の予防にはなりません。
しかし、上に挙げたそれ以外の合併症に関しては、
早期に抗生物質を使用することにより、
その発症が抑えられることが、
これまでの多くの研究で明らかとなっています。
更には抗生物質を早期に使用することにより、
発熱や咽喉の痛みなどの症状も、
より早く改善することが証明されていて、
周囲への菌の排出、
すなわち周りにこの病気を移すことも、
予防出来ることが確認されています。
つまり、こうした多くの理由により、
溶連菌による扁桃腺炎では、
診断の上早期に抗生物質を使用することが、
意味のある治療であると言えるのです。
それでは、溶連菌による扁桃腺炎を、
どのように診断し治療するべきなのでしょうか?
そこには幾つかの問題があります。
まず、症状のみから、
溶連菌の感染による扁桃腺炎を、
診断することは可能でしょうか?
あなたは足の静脈炎を持つことができますか?
扁桃腺が腫れる原因は、
勿論溶連菌以外にも多く存在します。
端的に言えば、100%の鑑別は不可能です。
ただ、溶連菌の感染症を疑う、
幾つかの特徴のあることは事実です。
まず、年齢は先刻触れましたように学童期に多く、
3歳未満や45歳以上ではその確率は減ります。
また、咳や鼻水、結膜炎を伴う場合は、
溶連菌が原因の可能性は低くなります。
従って、たとえば10歳のお子さんで、
急に発熱して咽喉の痛みを訴え、
咽喉を見ると扁桃腺が膿んで腫れていて、
頚のリンパ腺にも痛みがあり、
それでいて鼻水や咳や目の充血がないとしたら、
その場合はかなりの確率で、
溶連菌感染症が疑われる、
ということになるのです。
溶連菌による扁桃腺炎を疑った場合に、
まず行なう検査は、
インフルエンザのような簡易検査です。
通常咽喉から粘液を採取し、
数分で結果が出ます。
この検査が適切に行なわれた上で陽性であれば、
ほぼ溶連菌が原因の扁桃腺炎と、
判断して間違いはありません。
ポイントは、
症状から溶連菌の感染が強く疑われる場合に限って、
この検査を行なう、ということで、
実際扁桃腺が腫れていなくても、
咽喉の簡易検査で溶連菌の抗原が、
陽性になることは結構あるのですが、
それは「たまたま」菌がいた、
というだけで、
基本的に病的な意味はなく、
治療をする必要もない、とされています。
その例外は、
家族内で感染を繰り返すような場合で、
その時にはご家族全員の簡易検査をして、
陽性者がいれば、
同時に抗生物質を飲んでもらい、
その除菌を試みます。
ただ、これはそうした場合に限って行なえば良いので、
溶連菌による扁桃腺炎にお子さんが罹ったからと言って、
家族全員がその度に薬を飲む必要はありません。
エストロゲンは尿検査のレポートに影響を与える可能性が
さて、それでは症状からは強く溶連菌の感染が疑われるものの、
簡易検査が陰性の場合は、
どうするべきなのでしょうか?
この場合、欧米のガイドラインで推奨されているのは、
簡易検査が陰性の場合に限って、
咽喉の細菌培養の検査を、
追加で行なうことです。
培養の検査は確実で有用性が高いのですが、
その結果が出るのに、
数日は要する、という欠点があります。
従って、症状から溶連菌の感染が疑われる場合には、
培養の結果は待たずに、
抗生物質の治療を開始するのです。
日本で診療する場合の問題点は、
培養の検査と簡易検査とを、
同時に行なうことが、
健康保険では認められていないことです。
たとえばピロリ菌の検査では、
1つの方法で陰性の時に限り、
別個の方法で再検査することが認められています。
(しかし、実際には余程丁寧にコメントを書かないと、
冷酷に検査を切られることはよくあります)
溶連菌のケースも、
これと同様なのですから、
本来認められて然るべきなのですが、
結局は偉い先生の怠慢で、
自分達に興味のないような事項は、
幾ら不合理でも、
大抵改められることはないのです。
従って、多くの末端の医者は、
自分達の持ち出しで、
必要な検査を仕方なくしているのが、
臨床の現場の現状です。
愚痴はこれくらいにして、
話を戻します。
さて、診断が付けば、
今度は治療です。
欧米のガイドラインでは、
溶連菌感染による扁桃腺炎の、
標準的な治療はペニシリンの使用です。
たとえば、
合成ペニシリンのアモキシシリン(商品名サワシリンなど)では、
40mg/kg を2回に分け、10日間連続で使用します。
これを日本の使用法に直すと、
同じ量を3~4回の分服ということになります。
ペニシリンの使用がアレルギーで困難な場合には、
セフェム系の抗生物質を代用するか、
アジスロマイシン(商品名ジスロマック)を使用します。
セフェム系の使用量はほぼ日本と同一ですが、
アジスロマイシンは日本では3日連続ですが、
アメリカの使用量は5日連続です。
通常1日の抗生物質の使用で、
排菌はなくなります。
つまり、抗生物質を1日以上飲んでいて、
体調が改善していれば、
学校や保育園に、
復帰しても大きな問題はない、
ということになります。
ただ、こうした抗生物質の治療を行なっても、
その後の合併症である、
腎炎の発生を防ぐことは出来ないので、
溶連菌の感染後2週間は、
血尿やだるさ、浮腫みなどの発生に、
注意する必要があります。
今日は溶連菌による扁桃腺炎の総説でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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